
ゲーム/遊びを軸に、あらゆるアートやエンターテインメントを越境するBeyond Creaters Project「ars●bit(アーソビット)」では、シンガポールにて新たな企画展〈ART BIT MATRIX -TOKSATSU to VIDEOGAME-〉(以下、ART BIT MATRIX)を2025年8月29日(金)より開催します。
本展は、ホテル アンテルーム 京都で2021年から毎年夏に開催されている現代アート×インディゲームの企画展「art bit – Contemporary Art & Indie Game Culture-」(以下、art bit展)と、ars●bitプロジェクトの育成対象者でもある現代美術作家・たかくらかずきが2024年に手がけたグループ展「キャラクター・マトリクス」との合同キュレーションによる、新たなグループ企画展です。
現代アートのゲーム性とインディーゲームの芸術性という、合わせ鏡のような互いの魅力とクリエイティビティのルーツに注目し、アートとゲームの新たな可能性を追求する「art bit」展と、国内の現代美術シーンが見落としてきた特撮やゲーム発の依代としてのキャラクターバリエーションの世界を探求する「キャラクター・マトリクス」展。
両展で発掘された12組のアーティスト陣が合流することで、“美”の原理と文脈をめぐる価値転倒のゲームとしての西洋発の現代美術史と、アジアから日本列島に流れ着いた聖・俗・遊が習合する伝統美術およびポップカルチャーの蓄積をフュージョン。遊び心にあふれた絵画・彫刻・映像から、プレイアブルなアナログ・デジタルのゲーム作品まで、あらゆるメディウムが共棲する多元主義的なアート曼荼羅(マトリクス)が誕生します。
■特撮とゲームが往還する仮想と現実
1990年代から日本の現代アート史を牽引してきたミヅマ・ギャラリーの東南アジア拠点で開催される今回の展示が焦点に据えるのは、特撮からゲームへと受け継がれていった「呪術的な依代としてのキャラクター」です。
特撮は現実を空想世界に見立て、ゲームは仮想世界を現実にインストールする。かつて成田亨や高山良策といったシュルレアリスムやダダイスムに影響を受けた美術家が「ウルトラマン」シリーズに登場する特撮怪獣たちを造形し、さらにそこから「ポケモン」のようなゲームキャラクターが生み出されていった系譜を参照しながら、本展では現実と仮想を往還する特撮とゲームの接続点から起動しつつあるアートムーブメントを紹介します。
これは同時に、今世紀初頭に村上隆が西洋美術史へのカウンターとして戦後日本のマンガ・アニメ的キャラクターの表象に見出した2Dと3Dを超克する「スーパーフラット」の美学的・社会的ルーツを再検証しつつ、その後継であるオタクカルチャー/インターネットカルチャーからは抜け落ちていった可能性を再発掘し、さらに大きな世界美術史の脈絡へと拡張する試みでもあります。
その出発点として、スーパーフラットの勃興と並行しながら、原子力にまつわる戦後日本特撮の遺伝子を自身の彫刻作品に取り込んできた世界的アーティスト・ヤノベケンジを起用。
人々の旅を見守る「船乗り猫」をモチーフにした「SHIP’S CAT」シリーズは、大阪中之島美術館にも設置され、近年のヤノベのアイコンになっています。さらに岡本太郎が1970年の大阪万博で人類に遺した「太陽の塔」を地球生命の祖を運ぶ「宇宙船」として捉え直すヤノベの創作神話「BIG CAT BANG」に展開された「宇宙猫」を主人公に据え、ピクセルアーティストのBAN8KUがビジュアルを、京都芸術大学・大阪電気通信大学・相愛大学のゲームデザインチームが制作を担当したビデオゲームを内蔵する新作のアーケード筐体作品が初公開されます。それは現実世界における造形物でありながら、キャラクターを介して仮想的なゲーム世界に干渉することのできる仮想的な場を内包した彫刻作品として、本展の世界観を導入します(※今回展示では筐体とともに現在制作中のゲーム作品のオープニングムービーを上映予定)。
■多様なメディウムが共棲する遊び(play)と祈り(pray)のプルラリティ
そしてビデオゲームが内包するインタラクティブなメカニクスやグリッチを新たな絵画の原理として捉え直し、抽象のカオスから原キャラクター的な“図”が立ち上がるさまを西洋美術の歴史に突きつける竹内義博と岡田舜。特撮怪獣の原点である「ゴジラ」の痕跡を伝統的な日本美術の画法を援用しながら現代の都市ランドスケープへの批評的スペクタクルに変換する西垣肇也樹。彼らのペインティング作品は、特撮とゲームに通底する美術的な可能性を抽出します。
対して、平面と立体のあわいに神獣や怪人を造形する青山夢と谷村メイチンロマーナ。粘土や陶器のフィギュア群を現実環境の精霊として召喚する平山匠と九鬼知也。ポップな半人キャラたちの架空のテレビ番組をアニメイトする影山紗和子。まさに特撮とゲームをつなぐ「ポケモン」世代のアーティストたちは、日常空間を彩る玩具や文具に様々なモンスターを見出す想像力で多彩なメディウムに神霊を宿らせ、多神教的な曼荼羅時空としてのキャラクター・マトリクスを現出。
さらにcontact Gonzoが身体なきパフォーマンスとして設置する全長6mのコインゲーム、『スペースインベーダー』を脱構築した西島大介による往年のスーパーファミコン筐体型の「撃たないシューティング」、たかくらかずきによる仏壇彫刻に納められた瞑想儀式の依代としてのゲーム作品たち。それらは仮想と現実を行き来するための呪術的な装置となって、ゲームセンター的な魔法円の閉じた遊び(play)を、開かれた世界への祈り(pray)に変換します。
核の脅威を含む戦争体験が特に色濃く刻まれたジャンルである特撮から、現代エンターテインメントの共通言語となったビデオゲームへ。戦後80年を迎えた日本カルチャーの歴史に、いままた戦災が拡がる世界に向けて、どんなメッセージが見出せるのか、その芸術的可能性を模索します。
■開催概要
名称:ART BIT MATRIX -TOKSATSU to VIDEOGAME-
会期:2025年8月29日(金)〜10月19日(日)
火〜土 11:00〜19:00/日 11:00〜18:00(月曜休館)
☆オープニング・レセプション:2025年8月29日(金) 16:00-19:00
22 Lock Road #01-34, Gillman Barracks, Singapore 108939
入場料:無料
Organized by 一般社団法人渋谷あそびば制作委員会 / ミヅマアートギャラリー
Supported by
出展作家
ヤノベケンジ+BAN8KU+YANOKEN PROJECT
キュレーション
たかくらかずき
豊川泰行
中川大地