Beyond Creators Project〈ars●bit〉がめざすもの
日本が誇るゲームカルチャー。いま、この領域を中心に、さまざまなジャンルを越境・融合するムーブメントが起こりつつある。
たとえば現代美術やメディアアートの作家たちがゲームをひとつの表現の場として作品を発表したり、挑戦的なミュージシャンがゲーム分野でもその才能を開花させるケースなどが相次いでいる。
これはビデオゲームが、“遊び”としてのエンターテインメント性と、“表現”としての芸術性を併せ持っていることに起因する。
現代のゲームは、ひとつの表現ではできていない。
手のひらでコントローラーを、はたまたキーボードとマウスを操作することで、作品世界を彩るビジュアルアートやサウンドスケープが展開する。ルールに合わせてコンポーネントを操ることで、ただ一度きりのパフォーマンスとドラマツルギーがインタラクティブに創発される。
ビデオゲームの体験は、単なる競い合いに留まらない、作者と鑑賞者が共創する全感覚的な芸術表現の総体なのだ。
ゆえにゲームをプレイするその先には、アートや音楽、文学、映画や漫画、さらにはファッションやライフスタイルなど、衣食住にまつわるあらゆるジャンルの表現に接続する可能性が潜んでいる。
そのさまざまな混ざり合いの可能性に着目し、ゲームを出発点としたり、インスパイアされたりして、まだ名づけられていない分野横断的な表現にいち早く取り組んでいる新進のアーティストとその作品は、時に型破りな独特の魅力を放つ。
けれども、そんなジャンル横断的な表現に踏み込んだ作品は、従来のビデオゲーム市場のメインストリームではなかなか評価を獲得しづらく、ニッチな場でしか認知されにくいのが現状だ。
ゲームにかぎらず、世界市場にエンターテインメントIPが氾濫し、生成AIのような先端テクノロジーが創造することの意味を塗り替えていく中で、これからの表現活動はますますジャンル横断的なものにならざるをえないだろう。多様な評価軸を社会が許容し、ジャンルを超えたアーティストが活躍できる世界を創ることができなければ、日本のエンタメ文化やクリエイティブ産業の未来は心もとない。
私たちの提案するプロジェクト〈ars●bit(アーソビット)〉は、そんな可能性を掘り出すための、まったく新しい試みだ。遊び/ゲームを中核に、あらゆる芸術文化のジャンルを横断し、新たな価値観と評価軸を打ち立てることを目指す。
ars●bitというプロジェクト名は、 artの語源で根源的な芸術性を意味するラテン語 “ars ”と、最先端のデジタル技術を表す “bit ”が、●(感嘆のオー?)で結びついてできた。
“アソビヒト”とも聞こえる語感は、歴史家ヨハン・ホイジンガが提唱したホモ・ルーデンス(遊ぶ人)としての人間性を解放し、未来のアートやエンタメカルチャーの新たなかたちを提案・実証し、みずから切り拓いていける人材を育てたいという意志のあらわれだ。
具体的には、ひとつの表現に留まることなく、現代アートと同時にゲームを作ったり、漫画と同時にゲームを作ったりするような、分野横断型のクリエイターやチームの発掘・支援に取り組んでいく。
そして国内外での展覧会のキュレーションやアートフェア、ゲームショウ等への出展を通じて独自のコンテクストを醸成・発信し、これまでのゲーム産業や現代アートの枠には留まらない、新たなクリエイションが持続的におこなわれていく環境とマーケットを将来的に生み出すことを、プロジェクトのターゲットにしている。
主な取り組みの場所は、京都〈ホテル アンテルーム 京都〉と渋谷〈404 Not Found〉。日本を代表するカルチャー発信地でもある2つの拠点から、新たなクリエイションの歴史がはじまる。